■バウータ市場

今から約30年前のウッチと、現在のウッチとでは、ずいぶん趣が異なる。その30年は脱社会主義のポーランドが辿ってきた30年でもある。

ポーランドだけでなく、旧ソ連・東欧体制が崩れた象徴的な年となったのは1989年だった。普通は、冷戦終結の年という言い方をするのかもしれない。ポーランドでは、円卓会議そして自由選挙という流れがあった年だ。自分が移住した1994年当時は、新しい体制がまだ始まったばかりで、本格的に国の様相が変わるのは、2004年にポーランドなど10カ国が新たに欧州連合に加盟してからである。

身の回りのことを思い起こしてみると、税法など直接生活に関わる法律がずいぶん変わり、デノミもあった。通貨のゼロが4つも切り取られ、しばらくは頭の中で換算が必要だった。欧州連合加盟までの間は、仕事に関わる分野でも法律の変更にずいぶん悩まされた。もっとも、そのおかげで日系企業で仕事をさせてもらえたという側面もあるのであるが。今は、現地の言葉であるポーランド語が出来る日本人というだけでは、なかなか仕事が見つからないようだ。

話しをウッチに戻すと、ウッチの「顔」になっているショッピングセンターのマヌファクトゥーラ(Manufaktura)がオープンしたのは2006年(*)、地元の人々の生活に今でも欠かせないバウータ市場に、露店ではないパサージュが出来たのは2009年だった(*)。いずれも欧州連合加盟後のことである。二つともウッチの歴史に深く関わっているが、今日のテーマはバウータ市場。(*:公式HPによる)

郷土史に関するポーランド人向けの啓蒙的な動画はたくさんあるが、日本語で紹介しても良いかなと思える動画があったので、まずこの動画を紹介する。オリジナルの作者は、音楽家のトマシュ・ゴウェンビェフスキさん。作者にお願いして、日本語の字幕が表示されるようにして頂いた。翻訳はおおよその意味が通じればよいというレベルでやっつけてあるので悪しからずご了承をお願いする。

冒頭に、「19世紀中葉のウッチ市郊外。バウータ地区はこの頃に飛躍的に発展した。  」とある。19世紀中葉、つまり1850年前後ということである。ポーランドは、1830年の11月蜂起(-1831年)の失敗後、ロシアの属国に成り下がっていた。動画の冒頭はそうした背景があって述べられている。

時代は1915年に飛ぶ。第一次世界大戦(1914年ー1918年)のさなかの時代だ。ポーランドは、ドイツとロシアとの間の「戦闘地」になっていた。戦史の詳細は、専門の研究者の研究に任せるとして、とにかく1915年のウッチはドイツ人の手中にあったようである。

時代はさらに飛んで、第二次世界大戦中のドイツによる占領下の時代に移る。このブログでも、ウッチ・ゲットーについては過去に複数記事にしているが(■ウッチ・ゲットー探訪■ウッチ・ゲットー解体72周年のこと■ウッチ・ゲットー救出記念公園のこと)、この時期のことを扱う際には、どうしても避けて通れないテーマである。今日のテーマであるバウータ市場はその中心的な場所であった。ゴウェンビェフスキさんのこの動画でも、当然ゲットーのことが触れられている。

概して、18世紀末の「第3次分割」から、19世紀を通して、20世紀初頭の主権回復に至るポーランドの歴史は、実に波乱に満ちている。通常、この時期の歴史は、主役であるドイツやロシアの側から記述されることが多いが、視点を変えてポーランドからみたドイツやロシアを研究したら面白いかもしれない。当ブログでも、ウッチ郷土史という視点で、こうした時期の歴史の一端を翻訳・紹介している(■ウッチ歴史百科第3巻私訳版(未完))。

さて、この動画を紹介しようと思ったのは、ウッチの歴史の概略が辿れることが一つの理由であった。が、実はそれにも増して、作者の結語とも言える最後の部分に共感したというのが本音の理由である。今は我が家でも、買い物の大半はハイパーマーケットで処理するが、野菜や果物は出来るだけバウータ市場に出かけて調達する。バウータ市場といってももっぱら露店の方。それは、新鮮だからである。パサージュが出来た今でも、これは変わらない。バウータ市場の歴史的な意味はもちろん重要であるが、それは同時に自分の生活に直接結びついた場所でもある。歴史好きは、現在そこに住み生活している人々のことを忘れがちであるが、自戒をこめてこのことを思い起こしておきたい。

(了)

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